ビルやマンションの修繕工事を行う際、「少しでも安くしたい」と考えて、工事ごとに別々の業者へ発注するケースがあります。
例えば、
- ・内装工事はA社
- ・電気工事はB社
- ・水道工事はC社
- ・看板工事はD社
というように、項目ごとに分けて依頼するパターンです。
一見すると、専門業者へ直接頼むことでコストを抑えられそうに見えます。
しかし実際には、“分離発注”によって逆に損をしているケースが少なくありません。
特にビルオーナーや管理会社にとっては、「工事費そのもの」よりも、工事全体の管理コストや空室期間、トラブル対応の方が大きな損失になることもあります。
今回は、「工事を分けて発注すると損しやすい理由」について、現場目線で詳しく解説します。
1. 業者同士の調整コストが増える
工事を分けて発注すると、最も大きな問題になるのが“調整”です。
例えばテナント工事でも、
- ・解体
- ・電気
- ・空調
- ・内装
- ・看板
- ・消防
- ・通信
など、多くの業種が関わります。
これを別々に発注すると、
- ・誰が先に入るのか
- ・いつ材料を搬入するのか
- ・どの工事が終わってから次へ進むのか
- ・鍵は誰が管理するのか
- ・養生は誰がするのか
といった細かい調整が大量に発生します。
本来であれば、元請け会社や管理会社が一括管理してくれる部分を、オーナー側が間接的に負担することになるのです。
しかも、業者同士に直接の関係性がない場合、
「それはうちの担当ではない」
「先に聞いていない」
「その工事が終わらないと入れない」
という責任の押し付け合いが起こりやすくなります。
結果として、工期が伸びたり、追加費用が発生したりする原因になります。
2. “安く見える見積もり”が増える
分離発注では、それぞれの業者が「自分の工事だけ」で見積もりを出します。
そのため、一見すると金額が安く見えます。
しかし実際には、
- ・共通仮設費
- ・養生費
- ・搬入費
- ・廃材処分
- ・現場管理費
- ・交通費
- ・駐車場代
などが、それぞれの業者ごとに発生しているケースがあります。
つまり、全体で見ると二重・三重にコストを払っていることがあるのです。
さらに怖いのは、“工事範囲の抜け”です。
例えば、
-
電気屋は「内装側で復旧すると思っていた」
-
内装屋は「電気屋が戻すと思っていた」
という状態になると、最後に追加工事が発生します。
最初は安く見えても、最終的に予算オーバーになるのは、実はよくある話です。
3. 工期が延びやすい
工事を分けて発注すると、スケジュール管理が難しくなります。
例えば一社にまとめて依頼していれば、
「内装完了後に電気」
「電気完了後にクリーニング」
と自然につながります。
しかし分離発注の場合、
- ・A社の工事が遅れる
- ・B社の日程がズレる
- ・C社が別現場で来れない
という連鎖が起こります。
特に福岡のように工事需要が多いエリアでは、職人不足もあり、再調整が簡単ではありません。
一度スケジュールが崩れると、「次に入れるのが2週間後」ということも普通にあります。
つまり、工期が延びる=空室期間が延びる、ということです。
例えば月額20万円のテナントが1ヶ月決まらなければ、それだけで20万円の損失です。
工事費を数万円削減できたとしても、空室損失の方が大きくなるケースは珍しくありません。
4. トラブル時の責任が曖昧になる
工事で最も困るのは、“何かあった時”です。
例えば、
- ・水漏れ
- ・ブレーカー不良
- ・クロスの剥がれ
- ・エアコン不具合
- ・看板の点灯不良
などが発生した場合、分離発注だと原因特定が難しくなります。
よくあるのが、
「うちの工事ではない」
「別業者の施工が原因」
「引き渡し後なので分からない」
という状態です。
結果として、オーナーや管理会社が間に入り、何社ともやり取りすることになります。
これが非常に時間を取られます。
一括発注の場合は、窓口が一つなので、「まず元請けに連絡する」だけで済みます。
この“管理の手間”は、数字に見えないですが非常に大きなコストです。
5. テナントや入居者の印象も悪くなる
工事が長引いたり、段取りが悪かったりすると、入居者やテナント側にも不満が出ます。
例えば、
- ・工事業者が毎日違う
- ・誰が責任者か分からない
- ・連絡がバラバラ
- ・養生が雑
- ・清掃状態が悪い
という現場は、印象がかなり悪くなります。
特にテナントビルでは、「この管理会社、ちゃんとしてるのかな?」と思われる原因になります。
工事品質だけでなく、“現場の見え方”も空室対策や長期入居に大きく関係しています。
6. 本当に得するのは“管理できる人”だけ
もちろん、分離発注が絶対に悪いわけではありません。
建築知識があり、
- ・工程管理
- ・原価管理
- ・職人手配
- ・品質確認
- ・スケジュール調整
を自分でできる人なら、コスト削減できる場合もあります。
ただ、実際にはそこまで対応できるオーナーは多くありません。
本業をしながら管理している場合、工事管理まで細かく行うのはかなり大変です。
結果として、
- ・手間が増える
- ・工期が伸びる
- ・トラブルが増える
- ・空室期間が延びる
という流れになりやすいのです。
まとめ
工事を分けて発注すると、一見コストが下がるように見えます。
しかし実際には、
- ・調整コスト増加
- ・工期遅延
- ・責任範囲の曖昧化
- ・空室期間の長期化
- ・管理負担増加
など、“見えない損失”が発生しやすくなります。
特にビル・マンション管理では、単純な工事費だけではなく、
「早く決まるか」
「トラブルなく終わるか」
「管理の手間が減るか」
まで含めて考えることが重要です。
安い見積もりだけを見るのではなく、“全体最適”で工事を考えることが、結果的に収益改善につながります。
工事は「どこに頼むか」だけではなく、「誰が全体を管理するか」で結果が大きく変わるのです。